Annex of Theatrum Mundi

絶賛更新停滞中のはてダに加えて停滞するblog的な何か

感想・The Corporation

まず教科書的な前説。現在の企業を一個の人格として見て、精神分析を行うと明らかに「人格障害(サイコパス)」である、という診断結果が下される。この結果を元に、企業というものの本質に迫るドキュメンタリー作品。サンダンス映画祭などで数々の賞を受賞している。内容は40人に渡る証言者へのインタビューと過去の判例等をまとめ、企業の現状と未来のあるべき方向性について言及している。証言者には、言語学者ノーム・チョムスキー、映画監督のマイケル・ムーア、作家のナオミ・クラインや、ロイヤル・ダッチ・シェル前会長のマーク・ムーディ=スチュアート卿等がおり、企業を肯定的に見る人物と批判的に見る人物の両方が含まれている。
企業を人格と捉えて精神分析するというアプローチは面白く、それを立証するための議論や手法もそれなりに正当性のあるものであるが、最終的な結論がいささかステレオタイプな左翼的言論に堕しているきらいはある。あと疑問に感じたのが、資本主義に関しての言及が弱く(具体的には「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」への言及がない)、処方箋として示される方策も「<帝国>」でのかなり楽天的な観測に基づくものと大差ないのが不満。とはいえ、あまり読まれているとは思えないこれらの書物の内容のダイジェストを大分わかりやすく映像化しているのは評価に値する。
一点突っ込むところがあるとすれば、宣伝文句には昨今の郵政民営化についての答えを与えるとか書いてあるけど、それはいささか勇み足で、それらの問題について考えるための材料を提供する、という程度にとどめておいたほうが良い気がする。そういう意味では今の時期に公開されていれば、もっと多くの反響が得られたかもしれない。ただ、こういう映画を観に来るような観客はそもそもそれらの問題について考える人たちであろうから、現実の世論にまで影響を与えるには及ばないかもしれない。
今回の試写会をわざわざブロガーに向けて公開した意図を含めて考えると、映画や書籍などのメディア消費から選挙という公共のイベントまでがネットワーク上でマーケティングを展開することの必要性を認知し、実行に移したことが歴史に記録されるのかもしれない。コンピュータという欠陥商品を掴まされた人に対するセラピーとも言えなくはないかな(w。コンピュータネットワークへの接続が現実の社会への接続と錯覚できる環境が整い、作中で描かれた企業と政府の関係と同様に、現実の関係とコンピュータネットワーク上での関係が入れ替わる・・・それは幻想に過ぎないが、そもそも現実そのものが幻想との差異がない以上、新たなパラダイムの変化を誘発する要因となるのかもしれない。それが導く未来が幸福であらんことを祈って、感想に代えさせていただきます。長々と駄文をお読みいただき、ありがとうございます。