Annex of Theatrum Mundi

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「風立ちぬ」の主人公は誰か

書こうと思って伸ばし伸ばしになっていたこの映画の感想ですが、宮崎駿長編映画引退宣言(いつ撤回されるかが問題)を受けて書いておきます。内容的に引退宣言前に書かないと説得力がないのですがそこはしょうがないです。
一応ネタバレがあるので長めの改行を入れておきます。

























今作は主人公の声優が庵野秀明だったことで話題になりましたし、その演技も議論の的ですが私の観点からは重要ではないので、おいておきます。なぜならば、この映画の主人公は人間ではないからです。主人公は「夢」であり、もっと具体化するならば「美しい飛行機を作る夢」だからです。物語の構造的に、最初のシーンとラストシーンに現れるのはまさしく「夢」であり、そこでは飛行機こそが主役です。主人公と妻の物語がどこか希薄なのも、妻の行く末が描かれないのもすべて「夢」には直接の関係がないからです。
この映画と対をなすのは、黒澤明の「夢」です。晩年の黒澤明が美しい物だけを描いたこの作品とテーマは同じです。そして監督自身が自らの幕を引くことになるのも共通しています(正確には黒澤明はあと2本作品を製作していますが)。宮崎駿がアニメーションにおける黒澤明になる、というのが美しい結論だと思います。

蛇足ながら、ワンマン会社としてアニメーション界に君臨したスタジオジブリは外様の有力者(細田守)を受け入れられず、世襲(宮崎吾朗)も失敗して一代限りで閉じるのかと思いきや、同じく自らの会社を立ち上げた庵野秀明に(模倣子として)引き継がれることになりそうなのはなかなかのシナリオでした。あとは庵野秀明エヴァ以外の映画を成功させれば彼とその会社が後継者になるでしょう。